052004 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

waiting for the changes

waiting for the changes

11話:憎しみと邂逅

「鷹山君、コイツらは今までのヤツとは違う」

そう、作戦前に聞かされた。世界政府連合軍のエース部隊の撃破の任を翼は受けた。高々度をいつものGで飛行しながらデータに目を通す。
「・・・J?何者だコイツ・・・?」
反政府軍にも知れ渡る世界政府軍のエース部隊“トラアイアングル”。その名の通り3機のGで構成された部隊だ。地上からのGの包囲網と空からの翼の率いる戦闘機部隊による攻撃が作戦だった。そしてその中で目が留まったのは“J”という異名を持つパイロットだった。直感的に翼は“何か”が違うと感じる。“あの時”以来、その勘もよく当たる。
「コイツが“エデン・チルドレン”とか言う奴なのか・・・?」

“エデン・チルドレン”とは20年ほど前に発表された“エデン計画”の中で生み出されたと言われている。Gに乗る為だけに生み出された、いわば“兵器”だ。Gはコマンド入力方式によって稼動している。それではいくら反応が早い人間でも、動かしたいと思ってから、Gの動きに伝わるまで若干のタイムラグが生じる。“エデン・チルドレン”は非合法の遺伝子操作により、パイロットの意思を直接Gに伝えることの出来る人間だ。つまり、思ったように、手足のようにGを動かすことの出来る人間だということだ。

それは、作戦前にさっき入手した情報だと聞かされた。それに翼には心当たりがあった。あの白いGの動きだ。あれはどう考えても普通ではない。翼はさして驚きはなかった。
「コイツもアイツらと同類って訳か・・・」
モニターに映る“J”のデータを見ながら翼は呟く。だったら手加減はいらない。元々、手加減するつもりは無いのだが、白いGと同じ連中だと判断した翼は笑みを浮かべた。


同じ頃・・・
「トライアングル隊が襲撃を受ける恐れがあるとの情報を入手しました!」
「その情報は確かなの?」
桜がモニターを覗き込む。オペレーターが発信元を検索したが反応が無かった。
「いえ、匿名の情報のようです」
「これは・・・、近いわね」
襲撃の予想ポイントと記された地図には桜たちの部隊が駐留している場所から、Gで移動して2時間ほどの場所だった。その場所はトライアングル隊が進攻する経路で極めて開けた場所にあった。襲撃に使われる場所としては不向きといえる。が、相手は大部隊で殲滅に掛かるとのことだ。襲撃予想は現在から1時間後となっていた。
「偽の情報としても、これは詳しすぎるわね。きっと本物よ」
桜は反政府軍の内通者からの情報だと踏んだ。この時代でもスパイは多く、小さな情報が流出していることが多い。この間の「3」「4」の件もそうだ。彼らが撃破された情報も非常に早く届いたからだ。
「では、救援に向かいますか?」
「そうね。きっと反政府軍も強力な部隊を投入してくるでしょう」
「了解です。只今より準備を開始、15分後には出撃できます」
オペレーターが桜の部隊に指示を出す。桜も自室に戻りパイロットスーツに着替え始めた。タイトなパイロットスーツの感覚が桜は好きだった。気持ちが引き締まる感じがするからだ。ヘルメットを持ち外に出ると、そこにはいつも見慣れた2本の大剣を背負った桜色をしたGがある。桜はいつものようにポケットから写真を取り出し、口づけをする。
「あなた、行ってくるわ」
桜は他の仲間達と共にGへと乗り込んでいった。


「はい、警戒を続けます」
「美山隊の情報では間もなく襲撃を受ける予定です」
桜はトライアングル隊に襲撃される恐れがあると通信を入れていた。桜隊が救援に来ると追加で通信が入っていたが、襲撃されることが分かっているならトライアングル隊の実力があれば返り討ちも可能である。2機の灰色のグロリアス・スーパーと1機のカスタムされたG。後方にカモフラージュマントを装備した装甲車が続く。その時、起伏の無い声で“J”が反応する。
「来る」
「いきなりかよ!」
「それが襲撃ってもんだろ」
片方のグロリアス・スーパーの男がもう片方の男にツッコミを入れる。3機は数発のライフルを簡単に交わして、散開した。
「狙撃失敗!」
「んだと!?」
狙撃部隊が失敗したが、逆に翼は楽しそうな顔をする。相手はかなり出来る奴らだということだ。相手にとって不足は無い。
「G部隊、全機攻撃開始!戦闘機隊、行くぞ!」
カモフラージュマントを跳ね上げ、十数機のGが開けた荒野に現れ、一斉に攻撃を始める。3機の戦闘機も姿を現した。
「機体照合・・・G、グロリアス、スロウ、グロウ多数!戦闘機3機を確認!1機は・・・“漆黒の鷹”です」
「何だと!?」
数人しかいない狭い装甲車兼、指揮官室はざわめく。トライアングル隊を倒すために反政府軍は“鷹”を投入してきた。“鷹”がいるだけで反政府軍の士気は格段に変わってくる。指揮官は3機に指示を出す。
「気を抜くなよ!」
「了解!」


緑のグロリアスが灰色のグロリアスにライフルを放つが、いとも簡単にかわされ逆に一気に距離を詰めた灰色のグロリアスのブレードが緑のグロリアスを真二つにする。その奥にいたスロウが400ミリ砲を放つ。
「やべぇ!」
緊急回避した灰色のグロリアスだが、左腕の盾が吹っ飛ばされた。ダメージは少ないが、爆風で吹き飛ばされた。
「油断しすぎだぞ」
もう1機のグロリアスがいつの間にかスロウの真上にいた。急速に降下し、ブレードを突き立てる。
「うわーっ!!!」
400ミリ砲が真二つに折れ、爆炎を上げる。灰色のグロリアスは切り返しと同時に倒れ込んでいる灰色のグロリアスの元へ急ぎ、戦闘機が放ったミサイルを迎撃した。
「悪りぃ!」
「そう思ってるなら、さっさと起き上がることだな!さすがにこの数はキツい!」
まだ10機以上居るGが一斉に攻撃してくるため、仲間を守りながらの戦いは非常に厳しい。だが、彼は違った。
「何だ!?うわっ!!」
「やばっ・・・!」
彼の灰色のGの前に何機ものGが敗れ去る。いつの間にか、襲撃部隊は半分近くに減っていた。
「隊長!!」
そういい残して、戦闘機がその灰色のGに撃破される。間違いない。あの動き、そして色は違えど、Gの雰囲気・・・、間違いない。アイツ等と同じだ。
「はっ!やはりお前は!!」
翼は機体を人型へと変形させた。揚力を失った機体は降下し始める。それを利用し、翼は急速降下攻撃を灰色のあのGに仕掛けた。
「漆黒の鷹!!」
灰色のグロリアスが翼のGにブレードを構え突撃してくる。トライアングル隊。世界政府連合軍でも有数のエリートチーム。その圧倒的な強さで、勝ち続けてきた。だが、“圧倒的”なら“三角形”より“鷹”の方が遥かに上だった。
「ジャマだ!!!」
翼は降下中に戦闘機へと変形させた。急激なGがコクピットを襲うが翼には関係ないことだった。ゼロ距離でリニアガンとエネルギーガンが火を吹く。
「がぁー!!」
灰色のグロリアスは空中で爆散した。更に翼はもう一度人型に変形させ、邪魔なもう1機のグロリアスにリニアガンを放った。ジャンプしかけていた灰色のグロリアスは回避することもなく沈められた。あまりにもあっという間の出来事に、指揮官は硬直する。
「これが、“漆黒の鷹”か・・・」
2人の部下を失ってから、指揮官はようやく自分たちがとんでもないヤツの相手にしていることに気づく。もう、遅かった。Jが撃破されるのも時間の問題だろう。いや、“J”ならばあるいは・・・。そんな思考を巡らせている間に遂に、翼は“J”と激突した。


「はあっ!!」
翼が放ったリニアガンの弾をエネルギー弾で迎撃する。“あの白いG”と違った点は、エネルギー弾の連射力はそれほどないようだ。いや、そう見せかけているのかもしれない。翼はリニアガンを切り捨て得意の接近戦に持ち込む。両手から展開されたブレードが両サイドからJの灰色の機体を捉える。翼と同じタイミングでJもライフルを切り離し、滑らかな動きでJはブレードとシールドでそれを受け止めた。それは、とんでもない次元の戦いだった。
「ヤツは化け物か・・・。エデン・チルドレンと互角にやり合うとは」
指揮官は驚愕し、オペレーターたちは状況を報告するのも忘れ、次元の違う戦いに見入っていた。凄まじい連続攻撃を繰り出す黒いGとそれを受け止め、反撃に出ている灰色のG。Jは別として“鷹”の反射神経、操縦能力は人間離れしている。
「くっ!」
“J”がバランスを崩した。それを翼が見逃すはずはない。2本のブレードの一点攻撃でJの機体の左腕に取り付けられた盾が吹き飛ぶ。Jも盾がなくなった左手にもう1本ブレードを取り出し、翼と同じ2刀流となった。Jはいつもと違う感じがしていた。
「何・・・だ?」


物心付いたころからGパイロットとしての教育を受け、命令に忠実に生きてきた。感情の起伏がほとんどなく機械と言われていた。今、“J”は今まで味わったことのない感覚が、“漆黒の鷹”と戦うことで芽生えてきた。・・・この感覚は。
「動きが変わった・・・?」
灰色のGの動きが急に良くなり始めた。翼はそれが生き生きしているように見えた。着地した灰色のGは回転し、機体をひねってジャンプし斬りかかってくる。翼も空中で姿勢制御し、突っ込む形で受け止めた。こうすれば重力の影響も受け威力が倍増する。だが、灰色のGの潜在能力はそのパワーにあった。“鷹”の黒いGを押し返し始めたのである。
「やるじゃねぇか・・・」
翼もこの“J”というヤツがいままでのとは違うと感じ始めていた。人間のようにGを動かすこのJは只者ではないことは確かだが、自分と気が合うような気がした。
「J!!」
「鷹!!」
弾き飛ばされた黒いGは戦闘機へと変形し、エネルギー弾とミサイルを真上から灰色のGに浴びせた。灰色のGは機体をひねってかわし、最後のミサイルはブレードで迎撃した。爆煙の中から黒いGが躍り出る。灰色のGの左腕が根こそぎ吹き飛んだ。カウンターで灰色のGも黒いGの右のブレードを破壊する。
「ば、バカな・・・」
指揮官は、がくりと肩を落とすエデン・チルドレンである“J”の能力は良く知っている。機体と1つになりGの力を極限まで引き出すことの出来る“人”である。全てにおいて通常パイロットはエデン・チルドレンに勝つことは不可能に近いといっていい。しかし、今は違う。“漆黒の鷹”はエデン・チルドレン以上の能力を持っているのかもしれない。先ほどの考えを改めなければならないようだ。まだ、激戦は続いている。
「・・・!」
“J”のコクピットに赤いランプが点る。
“J”は右手に意識を集中させた。
心地よい感覚はまだ続いている。
・・・これが楽しいという感覚なのか?
灰色のGは水平にブレードを構え突撃する。左手にブレードを持つ黒いGも同じく突撃する。
「終わりだ!!」
黒いGが灰色のGの右腕の半分を関節から切り落とした。灰色のGが地面に叩きつけられる。斬り上げられた回転し、地面に突き刺さった。“J”は破れはしたが満足だった。この男といるとこの感覚を味わえるのではないか?“J”はそう考えた。すると、“鷹”から通信が入ってくる。
「おまえ・・・、本当にアイツ等と同類なのか?」
「アイツ等、とは?」
「お前と“同じ感じ”のする、白いGに乗ったヤツラだ!」
「悪いが、わからない」
“J”はきっぱりと否定する。翼は静かに続けた。
「だろうな。今のお前からは違う感覚がする。・・・俺と同じ感覚だ」
「何・・・?」
「・・・俺と来るか?」
思ってもいなかった。鷹は同じ感覚を持ち、その感覚の中にある時間を共有していた。彼といればこの感覚をまた味わえるのだろうか?Jは迷わず答えた。
「いいだろう」
「バカを言うな!」
2人の通信を聞いていた指揮官が割って入る。“トライアングル”を失ったことは大きいが、“エデン・チルドレン”を失うことがもっと大きい。20年前の違った意味での二の舞になる。
“J”は何も言わずに、怒鳴り散らす指揮官からの通信を切った。
「いいんだな?」
「ああ」
見たことも無い大型のGが現れる。今まで岩山と思っていたのはカモフラージュマントを被ったGだった。翼は“J”にGで合図を送る。
「これに乗ってくれ」
“J”は機体を立ち上がらせ、大型のGの背中に取り付けられた荷台の様な場所に乗り込んだ。何とかしようと近づいてきた指揮官の乗る装甲車に拾い上げたリニアガンで、足止めの一撃を喰らわせた。地面に大きな穴が開き、そこに装甲車が落ちる。
「ま、待て!!」
必死に叫ぶが、もはや彼には届くことはない。
「損傷は・・・軽微、たいしたことないな」
翼は機体をチェックし終わると、輸送用Gから新しい、リニアガンとブレード受け取り、その場を立ち去ろうとしたその時、大型のGから通信が入る。
「翼、敵だ」
「ちっ、なんだよ」
「エネルギーは補充した。思う存分やっていいぞ」
大型のGのパイロットは笑って言う。
「お前はそいつを連れて戻れ」
「了解だ」
大型のGはその巨体に似合わないスピードで一気に去っていった。翼はGを変形させる。
「お出迎えに行くか」


20分前・・・
「トライアングル隊、“漆黒の鷹”と交戦中との情報!!」
「何ですって!?」
桜の表情が変わる。目と鼻の先にいるのは“漆黒の鷹”反政府軍最強の英雄、そして夫の仇である。
「漆黒の鷹・・・!」
ようやくこのときがやってきた。この日のために生きてきたといってもいい。あの男を殺すために。コクピットの中で力が入る。気持ちが高ぶり、時が一瞬のように感じた。
「ト、トライアングル隊、“漆黒の鷹”1機に、な、全滅!?した・・・!?」
「え・・・?」
オペレーターも驚いたが、それ以上に桜が驚いた。一気に血の気が引いていく。桜が倒そうとしているのはあの、トライアングル隊をたった1人で撃破した男だ。自分がやろうとしていたことの大きさに逆に押しつぶされそうになる。でも彼を倒さなければ、何も変わらない。ここで私が倒さなければ・・・。


「“鷹”を視認!!」
翼は、戦闘機で一気に距離を詰め、至近距離ですれ違いざまにブレード、エネルギー弾、リニアガンの連続攻撃を仕掛けた。何が起きたかも分からないまま、半分以上のGが破壊される。
「散開して!固まっているとやられるだけだわ!」
桜は指示を出すが、あまりの“鷹”の速さに成すすべなくやられていく。すれ違っていた戦闘機はいつの間にか人型へと姿を変えていた。
「喰らえ!!」
ミサイルとバルカン、リニアガンの全弾発射が散開しようとしていた桜の部隊を捉える。
「きゃあ!」
桜の横にいたGが爆発し崩れ落ちた。爆風に吹き飛ばされ、よろめく桜色のG。粉塵の中には、立っているのは桜のGと翼のGの2機だけだった。震えが止まらない。これが、“漆黒の鷹”。
「み、みんな!?」
「ああ・・・」
「いてぇ・・・」
何人かが返事をしてくる。予想外なことにほとんどの仲間は死んではいない。鷹は急所を外して攻撃したようだ。桜にとってはその行動が信じられなかった。仲間が助かったことは良かったが、正直今はそんなことどうでも良かった。「この男を殺す」それだけだった。
「桜色の機体・・・、2刀流・・・乱れ桜か」
「倒す!!」
桜は2本のブレードを構え1本を黒いGに突き出した。
「上等だ」
翼がにやりと笑う。

運命の戦いの火蓋が切って落とされた。




© Rakuten Group, Inc.
X